大阪府吹田市の交番襲撃事件で無罪判決。精神障害での心神喪失で無罪なら社会が責任を取るべき

大阪府吹田市の交番襲撃事件で無罪判決。精神障害での心神喪失が理由の無罪判決なら社会が責任を取るべき政治・経済・社会

2019年に大阪の吹田市で起こった交番襲撃事件。警官が包丁で刺され拳銃も奪われ強盗殺人未遂等の罪に問われた事件で高裁が無罪判決を下した。私は心神喪失者の行為は罰しないとする刑法39条は改正する、もしくは無罪判決時に社会が責任を取る仕組み等が必要だと思う。

KiTsuneの見解
  • 精神障害に関するケースは減刑に留めて罰しないという理念は無くす、罰しないならなんらかの埋め合わせが必要
  • 理不尽は歪みを呼びヘイトを溜める。溜まったヘイトは社会のどこかに炸裂する
  • 個人で責任が取れないなら社会で取る。とにかく理不尽は避けた方がいい

大阪府吹田市で起きた強盗殺人未遂事件に無罪判決

少し前に、大阪で起きた強盗殺人未遂事件のニュースを見た。統合失調症を理由に高裁が無罪判決を出したもの。

大阪府吹田市の交番で2019年6月、警察官が襲撃されて拳銃を奪われた事件で、強盗殺人未遂などの罪に問われた男性被告(36)について、大阪高裁は20日、統合失調症の治療中だった被告の限定的な刑事責任能力を認めて懲役12年とした1審・大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。求刑は懲役13年だった。

大阪・吹田の交番襲撃 高裁で逆転無罪判決

地裁では以下の通り懲役12年の判決が出ている。判決に異論はなく、個人的にも心神喪失という状態とは考えられない。犯行の下準備と言える虚偽通報の電話や逃走のための着替えや買い物というのは後述する事物の理非善悪を弁識していると思う。

飯森被告は起訴前と起訴後の精神鑑定で統合失調症と診断された。渡部裁判長は判決理由で「精神障害が犯行に及ぼした影響は大きい」と指摘。一方で虚偽の110番通報で警察官を1人にしたり逃走時に衣服を捨てたりするなどの行動を挙げ、「臨機応変で合理的な行動をとった。善悪を判断し、行動を制御する能力を全く欠いた状態ではなかった」として限定的な責任能力を認めた。

その上で「犯行は著しく危険。地域社会に重大な脅威を与え、住民に強い恐怖心や不安感を与えた」と量刑理由を述べ、弁護側の無罪主張を退けた。

大阪の交番襲撃、懲役12年判決 限定的な責任能力認定

府警は防犯カメラの映像や目撃者への聞き込みなどから、飯森容疑者の足取りを追っていた。拳銃を奪った後、飯森容疑者は午前9時すぎに交番から北へ約4・5キロの「イオン北千里店」でえんじ色のジャンパーなどを現金で購入し、着替えたとみられる。捜査本部はその後、2時間ほどの間に北隣の箕面市内のコンビニ2店舗やホームセンターを次々に訪れ、虫よけ剤や携帯電話の充電器、電池を購入したとみている。

交番襲撃、33歳男を箕面市内で逮捕 強盗殺人未遂容疑

心神喪失、責任能力の有無が争点となるケース

以下は刑法39条の引用。

  1. 心神喪失者の行為は、罰しない。
  2. 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
刑法第39条

また責任能力の解説も同ページにあった。吹田市の事件は行為者の主体性は損なわれていないと思う。

責任能力とは、精神の障礙という生物学的要素と、事物の理非善悪を弁識し、ないしその弁識に従って行動する能力(行動を制御する能力が含まれるのは言うまでもない)の二本立てから構成される。すなわち精神の障礙により行為者の行為者としての主体性が完全に損なわれている場合、行為者の行為者としての主体性が完全に損なわれているわけではないけれども、行動制御判断又はその判断に基づく制御可能性いずれかの能力が欠ける場合が心神喪失であり、いずれかの能力が著しく低い場合が心神耗弱である。

刑法第39条

ググってみるとどうやら実際に刑法39条が争点になる代表的なケースが3つあるようだ。

  1. 脳梗塞やてんかんによるもの
  2. アルコールや薬物によるもの
  3. 精神障害によるもの

脳梗塞やてんかん発作などは基本的に車両の運転時のもので、原則的に心神喪失と判断されるようだ。意識を失い結果的に車が事故を起こしてしまったケースは無罪とするのに全く異論はない。事件というよりは事故だろう。

脳梗塞を発症して気を失った状態では、ハンドルやブレーキをきちんとコントロールする能力を一時的に無くしていますから、刑事では、心神喪失(しんしんそうしつ)に該当するとして責任能力はないと判定され(刑法39条1項)、罪を問われることはありません。

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またアルコールや薬物の影響下にある時、一部の状態では心神喪失と判断される様子。これは大いに異論ありだ。誰かにむりやり飲まされたのでなければ、むしろ飲酒時や薬物摂取時の犯罪行為は厳罰化すべきだと思う。自分で選択したのだから。

2. 複雑酩酊

飲酒によって気分の変化が激しくなり、些細なことがきっかけで不機嫌になったり(易刺激性の亢進)、著しい興奮が出現したりします。いわゆる「酒癖が悪い」「酒乱」と呼ばれる状態です。持続時間はかなり長く、一時的に鎮まっても興奮が再燃して持続的な経過を辿ることがあります。平常時では抑えられている脳機能の衝動性や未熟性が、アルコールによって表出されたと考えられます。重大な情動犯罪や突発的な自殺につながることもしばしばあります。
酩酊時の記憶は断片的であることが多いですが、基本的な状況把握能力(見当識)は保持されていることが多く、限定刑事責任能力が認められます。

3. 病的酩酊

意識障害があり、単純酩酊や複雑酩酊とは質的に異なる状態像を呈します。幻覚が生じることや見当識が失われることがあり、周囲の状況を認識することはほとんど不可能になっています。周囲から見ると理解不可能な言動を繰り返し、幻覚・妄想や状況の根本的な誤認から重大な犯罪に及ぶこともあります。飲酒中に突然、周囲からは理解不可能な激しい興奮や粗暴な行動を起こし、本人は翌日にそのことを覚えていない(健忘状態)のが特徴です。
病的酩酊は飲酒量がそれほど大量でなくても起こることも特徴です。刑事責任は原則的には無能力が認定されます。

酔い方の異常

本人が責任を取れないなら社会で責任を取る仕組みを

そして今回の大阪市の事件のように精神障害が原因となるもの。私は刑法39条において、精神障害に関するケースは減刑に留め罰しないという理念は無くす、もしくは罰しないと判断された時に国が被害者に賠償をするなどの仕組みが必要だと思う。

賠償金という言葉があるように、心身や人権への侵害に対し金銭で補う考え方は一般的だ。しかし無罪になってしまっては刑事の損害賠償命令制度も使えないし、民事での損害賠償請求が認められる確率も低くなるだろう。

情状酌量、つまり憐れむという考え方での減刑は社会に必要だと思う。起きた事を無かった事にはしていない。実際にこの事件では地裁の求刑時点ですでに病気の影響を考慮されているよう。これで十分では。

検察側は論告で、「住民に大きな不安と恐怖を与えた。完全責任能力があれば懲役25年を超える求刑をすべき事案だが、病気の影響を考慮した」として懲役13年を求刑。弁護側は最終弁論で、「病気のために行動をコントロールできない人に刑罰を与えても意味がなく、まずは治療が必要だ」として無罪を求めており、裁判員の判断が注目される。

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しかし「無罪」はどうだろうか。

社会的に罪と判定され罰を与えられれば、被害者からすれば自己の正当性の保証となり溜飲も下がるだろう。賠償があれば失った時間や金銭の補償となる。しかしそれらがなかったら。自分のものを棄損するだけ棄損されて何も埋め合わせがなかったら。あるいはそんな理不尽に晒された人を見てしまったら。

身体なのか精神なのか、あるいは両方かを理不尽に侵害されてしまった。それが事実なのに誰も何の責任も取らない。社会が無罪と決めてしまってその埋め合わせもなかったら再発防止にもならないし、目には目をの考えに戻ってしまうだけだと思う。

責任能力がないからと言って事実が消えるわけではない。理不尽からくるその歪みは個人に・社会にヘイトを溜める。溜まったヘイトは当事者間だけでなく全く無関係な別の場所で炸裂するかもしれない。

事実関係に間違いがなく確かに事件を起こしてしまったならその責任は誰かが取らなくてはいけない。宙ぶらりんは歪みであり、無罪は適切だと思えない。

改正になんらかの問題があるなら、精神障害を理由にした無罪判決時に国が加害者に代わって賠償金を支払うとかはどうだろうか。

個人が責任を取れないなら社会で取る。兎にも角にも「一方的に人権を侵害され加害者への罰も被害者への埋め合わせもなし」という究極の理不尽は避けた方がいいと思う。

誰も責任を取らないとなると「そんな人間は外に出さず一生閉じ込めておけ」という論調や家族に責任を取らせるリンチを呼んでしまうのではないだろうか。それは加害者本人やその家族も含め社会全体にとって良くない事だと思う。

KiTsuneの見解
  • 精神障害に関するケースは減刑に留めて罰しないという理念は無くすか、罰しないならなんらかの埋め合わせが必要
  • 理不尽は歪みを呼びヘイトを溜める。溜まったヘイトは社会のどこかに炸裂する
  • 個人で責任が取れないなら社会で取る。とにかく理不尽は避けた方がいい

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刑法第39条 | wikibooks.org

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