ある女性障害者の意見を取り上げたNHK系のTwitterアカウントのツイートが批判されている、という記事を見た。問題は趣旨の変わる要約・切り取りや釣りタイトルにあると思う。
NHKハートネットのツイートが批判されているとの事
以下がYahooニュースに掲載された記事。
NHK福祉ポータルサイト『ハートネット』の公式Twitterアカウントが、「男性からの入浴・排泄介助は性犯罪被害に遭っているのと変わらない」といった趣旨のツイートを発信したことで批判が殺到しています。
「男性からの入浴・排泄介助は性犯罪被害に遭っているのと変わらない」NHKのツイートに批判殺到
批判されているという対象のNHKハートネットのツイートは以下。
またツイート内にあるリンクの遷移先からは該当の女性が寄せたメッセージの全文が確認できる。記事執筆時点では5ページ目だった。
異性介助の心身へのダメージ
女性障害者が男性ヘルパーや男性看護師から入浴や排泄介助を受けることは、単なる羞恥心の問題ではありません。尊厳の問題です。私は、男性ヘルパーの入浴や排泄介助を受けましたが、一度も「恥ずかしい」という言葉は思い浮かびませんでした。心身共にナイフで、ズタズタにされる感覚でした。性犯罪被害に遭っているのと、感覚は変わりありません。障害のない女性あれば、男性が一緒に浴室やトイレに入ることは、問題視されることを、女性障害者の男性ヘルパーや男性看護師による異性介助に限って、福祉や医療の名目で「福祉ウォッシュ」「医療ウォッシュ」して、女性障害者の尊厳を無視しないで欲しい。
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趣旨の変わる要約と切り取り
NHKのアカウントやWebサイトは報道そのものなので、当事者の素の声を届けるという意味ではおかしくない。
しかし趣旨が変わる要約や切り取りはどうかと思う。上記の全文を読んだ後にもう一度NHKの要約ツイートを見てみてみる。
女性障害者が
男性から入浴や排泄介助を受けることは
単なる羞恥心の問題ではありません
尊厳の問題です心身共にナイフで
ズタズタにされる感覚でした
性犯罪被害に遭っているのと
感覚は変わりありません
これに続いて以下の文章が画像で添付されている形だ。
男性ヘルパーの入浴や排泄介助を受けました
女性障害者の尊厳を無視しないで欲しい
ー身体障害のある女性
私はニュアンスが大きく変わっていると思った。女性は何も性犯罪として取り締まってほしいわけでなく、それくらい辛いものだと感覚・感情を表現しているに過ぎない。それをまるで男性ヘルパーの介助自体が犯罪であるかのように紹介している。
これに「身体障害のある女性」と署名を入れて公開するのは問題だと思う。少なくとも提示されたソースでは彼女はそう発言してはいない。引用するならせめて素のまま出すべきだと思う。このようなセンシティブなトピックならなおさら。
釣りタイトル
またYahooニュースの記事タイトルも同じく問題だと思う。
「男性からの入浴・排泄介助は性犯罪被害に遭っているのと変わらない」NHKのツイートに批判殺到
かぎかっこでくくる形で文章の直後にNHKのツイートと書かれていれば、それは当然「NHKがそうツイートした」という意味になります。
私はこのタイトルを見てNHKのTwitter担当者が個人アカウントと間違えて変なツイートしたのかなと思った。しかし現実はNHKはそのようなツイートしてはいないし、形式的に大元の発言はNHKではなく該当の女性だ。
記事のタイトルというのは記事の内容を表すべきもので、それが乖離しているものは釣りタイトルと呼ばれる。英語ではクリックベイト。
少なくとも記事タイトルで他者の発言を持ってくるなら、発信者や趣旨を誤認させないように気を配るか、もしくは手を加えず引用するかした方がいいと思う。
要するにNHKは女性の意見をニュアンスが変わる形で要約・切り取りしているし、篠原氏は女性の意見をNHKの発言とするような釣りタイトルを用いていると思った。
女性の言いたい事はこうではないか
本当に女性が伝えたい事は以下のようなものではないだろうか。
障害があっても、障害がない人と同じように生きたい。これに尽きると思う。
「性犯罪被害」や「尊厳」というワードはとても強く、女性自身もそれくらい辛いのだとわかってほしいのだと思う。そのキャッチーなワードをNHKが拾った。
おそらくは「全文はリンク先に掲載してあるし、まず耳目を集めなくては報道の意味がない」との考えだと思う。しかし別の拾い方もできたのではないだろうか。
個人的にはそうした炎上マーケティング的なものの効果は否定的だ。瞬間最大風速は記録できても、総合的に色々なものを失う事になると思う。それは歪みを呼びヘイトを生み、いつかどこかで炸裂するかもしれない。
もう「異性介助の心身へのダメージ」という本論を考えている人は少ないのではないだろうか。
NHKは「女性の障害者」という文脈で様々な意見を募集し取り上げたようだが、本質を考えるとこの問題は女性障害者に限らない。
男性からも女性に介助される事に苦痛を感じる声が上がるかもしれないし、今後日本で増加していく老人にだって介助や介護は必要だ。そう考えると喫緊の課題とも取れる。
現時点では何の対応もできないという結果になってしまうかもしれないが、こうして建設的な議論ができそうなのにNHKや単語への批判で世論が埋まってしまうのは残念に思う。
事実関係に基づく重要性
特にネットを介すと多くなるが、まず切り取りや要約をするなら書き手の趣旨や意図に反しないよう最大限気を使うべきだと思う。
他者の発言の趣旨/意図を理解し論ずるというのは実はかなり難しい事だが、事実に基づくという鉄則さえ守れば論外に至る過ちは高確率で避ける事ができる。逆に事実に基づいたものがベースにないとその後の話は全て的外れになっていく。
言った言わないとか捏造だとか事実誤認だとか、議論の外側(つまり論外)がボトルネックになり話にならない様は大人でもよく見られる。それこそマスコミの報道だけでなく、国会とか。
問題の原因を解明したり物事を論じたりする時は大元の根拠・前提をビシッと決めておけばそう簡単にはズレる事はない。
根拠は特にWebではソースという言われ方をする。出したデータの出所が分からないとか、誰かの要約を元に論じるとか。
河野太郎氏はデジタル庁の大臣ならソースへのリンクを貼ってほしいでも触れたが、ベースとなる根拠を取り違えないようにすれば誤解の元を断てるし、誤りを指摘する/される事もできる。
相手が言ってもいない事を勝手に読み取ったり邪推を事実のように前提にしたりするのはNG。Webでのやり取りにとどまらず直接の対人関係や仕事でも大切な事だと思う。事実関係がわからなければそこに留意して対応する、事実関係を確認する、判断を保留する、など少し落ち着くアクションが肝要。
記事内に出てきた関連リンク↓
「男性からの入浴・排泄介助は性犯罪被害に遭っているのと変わらない」NHKのツイートに批判殺到 | yahoo.co.jp
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