【ネタバレあり】映画「THE FIRST SLAM DUNK」感想。宮城の内面と別世界線のスラムダンクに入れなかった

THE FIRST SLAM DUNK 入場者特典のコースター映画

映画「THE FIRST SLAM DUNK」の感想です。ネタバレあり。宮城を主人公に据えて掘り下げたパラレルワールドのスラムダンクに入り込めなかった。

KiTsuneの感想
  • 宮城のお母さんに感情移入してしまった
  • 試合の名シーンが「置き」に感じた
  • 別世界線のスラムダンクに入り込めなかった
  • アクションと音響は最高。これで山王戦2.0を見たかった

映画「THE FIRST SLAM DUNK」の感想

年末に映画「THE FIRST SLAM DUNK」を観てきた。公式サイトは映画『THE FIRST SLAM DUNK』。トップ画像は映画の鑑賞特典でもらったコースター。裏にQRコードが載っており、アクセスするとこのキャラクター等がわさわさ動く。

私は原作の漫画を読んだ事があるだけで、アニメも旧劇場版も観た事はない。それらのストーリーも知らない。

漫画は学生時代に友人の家で、また漫画喫茶で何度も読んだ。スラムダンクとアイシールド21はスポーツ漫画の二台巨頭だと思っている。これを超える作品はなかなか出てこない。

旧友と二人で観てきたが、個人的には残念な点が目立つ出来だった。求めていたスラムダンクとは違った。

宮城の家族の過去描写が悲しすぎる

まずTHE FIRST SLAM DUNKは主人公が宮城リョータだった。事前情報の一切を入れていなかったのでこれにはビックリ。

私が知っていたのはネットのニュースでヘッドラインを見た「アニメ版や旧劇場版と声優が違う」「アクションは3DCGで描かれている」程度で、原作の最終戦であるVS山王を2時間でやるんだろうなーくらいにしか思っていなかった。

沖縄に住む宮城。慕っていた兄を事故で亡くしてしまった。それも最後に酷い言葉を吐いて。少し前には父親も亡くしている。家庭の不和。引っ越し。

宮城の家庭と内面を通じてバスケに対する思いを描写していく。宮城にとってバスケは単なる競技やスポーツという意味だけでなく、兄とのコミュニケーション手段だったり、焦燥感からの逃避先だったり、また失った絆を取り戻すきっかけであったりしたのだろう。

この掘り下げ自体はとても良かったのだが、それに付随して、いや付随どころかそれ以上に大きく哀の感情を引き連れてきてしまった。

高校生の時に観たなら宮城に感情移入できたのかもしれない。しかし宮城の過去パートは母親が不憫すぎてどうしても宮城ではなく母親に感情移入してしまった。

これは後述するバスケシーンの爽快感とは全く別ベクトルのもの。二つの全く種類の違う見どころに感情が揺さぶられてしまった。

夫を亡くして、これからは俺が家のキャプテンになると言ってくれた長男まで亡くして、片親で2児を連れて沖縄から関東への長距離引っ越し。団地での暮らしぶりを見るに死んだ夫は生命保険も入っていなさそう。これからの生活はどうするのか。次男はケンカで怪我して帰ってきて、と思ったらバイク事故で病院に運ばれて。

正直スラムダンクを観ている気分になれなかった。

ベクトルの違う見どころもジャンルと構成次第ではあるとは思う。コメディだけどラストちょっとホロリとくるやんみたいな。

でもスラムダンクのそれは、アクションパートと宮城の内面がいったりきたりで感情がさながらジェットコースターみたいに揺さぶられてしまった。

外伝的にキャラクターを掘り下げてくれるのはファンとしてはとても嬉しい事だが、家庭内をメインに描いた事で映画としての見どころが分散してしまったと思った。それは見方によっては複数のベクトルの魅力があるという肯定的な評価にも繋がるのだろうが、私はそうは見れなかった。

試合中のシーンは「置き」に感じた

アクションは圧巻の一言。動きと音響がハイクオリティすぎる。自分はスポーツ観戦(と言ってもYouTubeで流れてきたら見る程度)ではバスケが特に好きで、その理由は身体能力と技術の凄さを実感できるからだ。

バスケットゴールを見た事がない人はいないだろう。何なら肩車してリングに掴まってからボールを受け取りダンクの真似事くらいするもの。

ちゃんとしたルールの上でなくともシュートを放った事は誰にでもあるはず。ボールがどれだけ重いのか、コントロールがどれだけ難しいのかを実際に体感して知っている。

手品のようなボール捌き、一瞬のアイコンタクトどころか見てもいないのに的確なパス。豪快なダンク。人間の身体はこんなに素早く力強く動くんだなーとバスケの動画を見るといつも思う。

そんな実写と同等以上の迫力を、実写を上回るカメラワークで見せてくれるんだから最高だ。バスケに限らずスポーツの試合ってよほどお金がかかってない限り定点の視点で、これがアニメーションならではの自由な視点で描かれているのは爽快感があり見ていて実写以上に気持ち良かった。

しかし宮城の過去パートに時間を割いた結果バスケパートがかなり少なくなっている。にも関わらず原作漫画のシーンがそのまま描かれているので前後が繋がらなくなっており、ただ見栄えのするシーンを置いただけみたいに感じてしまった。

例えば沢北が花道を探すほんのわずかな一瞬が隙となり流川にボールを取られるシーン。あれはバスケットのセオリーから外れたところで妙な存在感を出してくる花道を警戒しての事で、花道のそれまでのプレイがあったからこその警戒なのに。

しかしそれまでのプレイがカットされているので意味が通じない。まるで沢北が試合中に気を抜いたような描かれ方に感じた。

三井はどうして後半に一人だけバテているか。一ノ倉というディフェンスのスペシャリストがわざわざ三井潰しのためにスタメン起用されベッタリ張り付かれていたからだが、その描写もほとんどなかった。というか山王チームはメンバーの名前すらほとんど出てこず。

人物紹介というわけじゃないが、これなら漫画にあった山王の試合前日のミーティングの様子くらい入れても良かったと思う。花道がよくわからない動きをする素人、でも一応警戒というポイントもカバーできるし。

宮城の「ダンナ、勝負!」は「ゴール下でしか仕事ができないと分かった川田弟となら赤木に分があるからこそのコーチング」であって、今回の映画ではそれが描かれていなかった。川田弟は名前はおろか交代のシーンもないのでただいきなり出てきた大男。赤木と川田兄の戦いもほとんど描写なし。

尺が足りずおざなりな他キャラクターの描写

川田兄は今まで戦ってきたどのセンターよりも手強い相手。練習してきた動きも通じずブロックされ、気持ちが切れるデッドラインの20点差となるシュートを自分のミスで決められてしまう。

そうした描写もなしにそれっぽい精神世界に入られても、バックグラウンドが語られていないのだからどうにも薄っぺらく感じてしまった。

花道の怪我に気づいていた安西先生。どんどん成長する花道をもっと見ていたかったから止められなかった。でも原作にはもっともっとブ厚いドラマがあるんだけどなぁ。

それこそ安西先生の心中を描く事もできたはず。目の前ではなく遠い新天地アメリカを目指す流川を掘り下げ、それを諭す安西先生を掘り下げれば自ずと谷沢の話になる。流川と花道、そして谷沢のエピソードはあのシーンを大いに盛り上げただろう。

でもこれらのバスケット・キャラクター描写よりも宮城の家庭と内面を描く事に舵を切ったのがTHE FIRST SLAMDUNKというわけで、確かに挑戦的な作品だと思った。

個人的に他キャラクターのシーンで見れた描写は二つ。一つは三井と宮城が実は中学生時代にストリートで会っていて1 on 1をやっていたシーン。こういうちょっとしたエピソードは大好物だ。

もう一つは赤木と宮城のシーン。やる気のない先輩達の引退試合となった戦いの後のロッカールーム。問題児の宮城とお前じゃ合うわけがない、みたいな捨て台詞に対し「宮城はパスが出せます」と言うシーンが良かった。

別の世界線のスラムダンク

宮城がバイクで事故って病院で目を覚ます場面もいかにも当時の若者の焦燥感ややりきれなさを表すのに安易な描写だと思った。これは原作の漫画にはなかったもの。

宮城と三井は漫画ではケンカでお互いに入院しており新入生(花道と流川)が入ってきて少ししたタイミングで退院してきた経緯だったはずだが、今回の映画では宮城は裏でバイク事故を起こしていた。私はこの表現が何を意味しているのかわからなかった。

そして髪を切った三井と二人で顔を腫らして一緒に復帰。これは裏設定とかでなく全く別の世界線のスラムダンクという事を示している。鉄男達を引き連れて全てを壊しにきた「かつての混乱」はなかった事になっている。あの名セリフも。

そう考えるともうこのTHE FIRST SLAM DUNKの中には入れなかった。ある意味原作未読の人と同じ状態で観る初めてのスラムダンク。だからTHE FIRST SLAM DUNKなのか。その意図であれば私は確かにハマった事になる。

ただ、原作の熱量を知っているにも関わらず気持ちが入り込めなかったこの状態は何とも歯痒く、未読の人よりもずっと粗が気になってしまった。THE FIRST SLAM DUNKの世界に入り込めなかった。これに尽きる。入り込めていたなら評価は真逆だったはず。

この状態では宮城と母親以外の全てのキャラクターが浅く見えてしまった。試合中の置きシーンと同じくキャラクターの魅力までフワフワしたものになってしまった。それはある意味当たり前で、二時間という枠ではとても描ききれない。

花道の行動も奇行にしか見えず(実際奇行なんだけど)、「ヤマオーは俺が倒す」も空虚なものに見えてしまった。というかあそこ、動画で見たらかなりヤバいシーンだな。花道の背中の怪我の一因はゴリじゃないかと思えるくらい。

野辺のユニホームを引っ張ってリバウンドに飛ばせないとかも、無理して試合シーンをそのまま持ってくるのではなく魚住の全カットと同様に編集した方が良いと思った。

花道の声は決して合っていなかったわけではないと思いったが、気合の入った声量のあるボイスがどうにも空回りしていた印象を受けた。演技がどうというより力強い声にキャラクター側が負けている。

あそこまで宮城にフォーカスするならいっそ他のキャラクターの描写をもっと極限まで削っても良かったんじゃないかと思う。なぜか流川だけはそんな感じで、元々口数の少ないキャラですが出番も回想も少なすぎて記憶に残らず。この扱いのバランスの悪さにも疑問が残った。

一度しか見ていないので見逃した部分も多々あるかもしれないが、流川に関しては本当に何も覚えていない。沢北と関連するアメリカ絡みの話もなぜか宮城に取って代わられていた。

湘北バスケ部の山王戦2.0が観たかった

要するに私が期待していたスラムダンクとは違ったという話だ。全体を通して宮城と母親にフォーカスしており、二人以外のキャラクター・試合の描写が薄く感じてしまった。

求めていたのはバスケットボール。スラムダンク。最高の山王戦。実写にはできないアニメならではのカメラワーク。目の前でプレイしているかのような迫力のある音響。映画である事も忘れるようなスポーツ観戦の熱狂。試合結果がどうなるかなんて30年前から知っているのにそれでも手に汗握らずにはいられない。あるいは、まさか別の結末を迎えるなんて事もあるのだろうか?

そして伝説のラストシュート。あのシーンは本当に素晴らしかった。「」も含めあえての無音。心臓バクバク。静寂を打ち破る二人の勝鬨。

そのカタルシスを宮城の過去話による哀の感情が、そしてそれに尺を取った結果薄くなってしまった試合シーンや他キャラクターの描写がスポイルしていたと感じた。

例えるならリニューアルオープンしたとんこつラーメン店に行ったらメニューが「塩とんこつ」になっていた感じ。

仮定・例
  • とんこつラーメンの老舗がリニューアルオープンし、濃厚とんこつラーメンを期待していた→塩とんこつラーメンが出てきた

美味しいんだけど塩ダレが入ったせいかトンコツがボヤけてしまっている。これならトンコツをもっと減らして塩主体のラーメンの方が美味しいんじゃないかな。でもそれはもうとんこつラーメンじゃない。

私は塩ダレなしの、素材の質を高めた新濃厚とんこつラーメンが食べたかった。

食の好みは人それぞれ。映画も同じ。塩とんこつが最高に美味しかった人もいる。私にはちょっとしょっぱかったかな。

逆に言えばそこまで入り込めなかったにも関わらず目を潤ませたラストシーンは本当に素晴らしかった。痺れた。原作ファンの人もそうでない人も、このシーンの為だけに観に行っても後悔はしないと思う。この記事を見てる人はもう視聴済みだろうけど。

最後に一つ。ラスト1分で宮城が全員に活を入れるシーンがとても良かった。ここは原作を超えていました。次期キャプテンとしての強いリーダーシップを印象付ける大事な描写だと思った。

KiTsuneの感想
  • 宮城のお母さんに感情移入してしまった
  • 試合の名シーンが「置き」に感じた
  • 別世界線のスラムダンクに入り込めなかった
  • アクションと音響は最高。これで山王戦2.0を見たかった

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